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2025/11/06 お知らせ

勾留阻止に関するご報告(弁護士 金思明)

勾留阻止に関するご報告

                                      弁護士 金思明

2024年10月から2025年10月までの約1年間において、当番・国選事件として受任した4件のうち、3件で勾留阻止(勾留請求却下2件、勾留取消1件)を実現いたしました。

勾留阻止率は約4%程度であり、ある程度高い割合だと思います。以下では、勾留阻止のために行った具体的な取り組みについて報告・解説いたします。


1.勾留阻止の基本的な考え方

 逮捕・勾留は、形式上は「逃亡・証拠隠滅のおそれ」がある場合に行われるものとされています。
 しかし実際には、自白事件であっても、検察官による最終処分(略式起訴や不起訴処分)が決定するまで勾留が続くことが少なくありません。
 したがって、勾留を阻止するためには「逃亡・証拠隠滅のおそれがない」ことを、具体的な事情をもって主張・立証していくことが重要になります。


2.具体的な取組内容

(1)身元引受人の確保

 身元引受人の存在は、勾留阻止の基本条件といえます。身元引受人がいることは当たり前で、いない場合には、勾留阻止は基本的に難しいといえます。
 このため、ご家族の協力を得ることが重要です。しかし、当初期待した親族から協力を得られないことも少なくありません。たとえば、配偶者の協力が得られないこともあります。その際には、父母や、成人した子など、他の親族に協力をお願いすることになります。
 身元引受を依頼する際には、勾留制度の仕組みや協力の意味について、懇切丁寧に説明することが大切です。


(2)示談交渉の進展

 示談が成立している場合、被害の回復が図られているとして不起訴の可能性が高まり、釈放が認められやすくなります。
 また、示談が未成立でも、示談交渉が具体的に進んでいることを示すことにも意味があります。実際に、3件のうち2件では、示談は成立していなくても、具体的に示談交渉を進めていることを裁判官に伝えた結果、釈放が認められた事例もありました。


(3)裁判官との面接

 裁判官に対しては、勾留請求却下や取消を求める意見書を提出するだけでなく、直接の面接を求めることが有効です。最近は電話で面接することが多いです。
 経験上、裁判官は被疑者本人のみならず、弁護人の姿勢や信頼性も重視しているように感じています。実際に、面接において、弁護人にも「身元引受人」としての関与を求められた例もありました。これに応じたところ、釈放されました。これは、被疑者が逃亡・証拠隠滅しないように、弁護人も協力的か信頼できるかを見られているということだと推測されます。裁判官面接まで行なう弁護人は信頼できると判断されているのではないでしょうか。


3. 今後の課題
 以上の3点を毎回の事件で地道に実践した結果、勾留阻止という成果を得ることができました。これらの取り組みは特別な手法ではなく、時間と労力を惜しまず努力することによって実現できるものであると感じております。
 もっとも、今回成果を挙げたのはいずれも自白事件であり、否認事件については依然として厳しい判断を受けています。実際、否認事件では勾留取消を求める意見書を3度提出しましたが、いずれも認められませんでした。その事件は初回接見時から冤罪であると確信しておりましたので、完全黙秘を被疑者にアドバイスしたところ、被疑者も見事に応じてくれまして、勾留満期釈放後に不起訴処分を得ることができました。生活への影響も少なく抑えることができましたが、やはり最大で23日間の身体拘束は重大な人権侵害であり、勾留阻止ができなかったことはとても残念に感じています。
 近年、刑事弁護人の不断の努力により、人質司法の問題点が社会的に広く認識されるようになり、裁判官の意識にも一定の変化が見られます。このような先達の活動の積み重ねが、勾留阻止の成功率の上昇にもつながっていると感じております。しかし、とくに否認事件についてはいまだ厳しい状況があります。今後も地道な努力を継続し、否認事件においても勾留阻止を勝ち取れるよう努力して行きたいと思います。

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